がヒョウタに初めて出会ったのは、クロガネシティの炭鉱だった。

黒縁の眼鏡に、深い紫の髪。

初めてのジムリーダーで緊張していたせいかもしれない。

だがそれ以外に強烈な印象を、この男から受けた。

柔らかい口調も、自信に満ち溢れる物腰も、全てが鮮烈で。

視線を捕らえて離さない、そんな男だった。

今思えばこの瞬間から、全てが始まっていたのかもしれない。


「あっ、もしかして初めてここにきた?」


地下で再会したヒョウタは、一つも変わってなどいなかった。

相変わらず化石が好きで、相変わらず探検が好きで。

温かな笑顔も、自信に満ちたその表情も、全てがあの日のままだった。


「ようこそ、シンオウの地下通路へ!」


そう言って微笑むヒョウタに、の胸は高鳴った。

初めてジムリーダーと戦ったあの時とはまた違った高揚感。

けれども鼓動が早鐘を打つ理由がわからなくて、は困惑した。

目の前のヒョウタはニコニコと柔和な笑みを浮かべていて、自分が以前倒されたことなど微塵も気にしていない様子だった。

ならば自分だけが気にするもの馬鹿馬鹿しく、は困惑しながらも口を開いた。


「あの……ここはどこですか?」


その声が震えていることに、は気がついてしまった。

ヒョウタは気がついただろうか。

不審に思われてしまっただろうか。

けれどもヒョウタは嬉しそうにただ笑うだけで、それ以外は何もなかった。


「ここはシンオウの地下に広がる、巨大な地下通路さ!」

「こんな広いところで一体何をしているのですか?」


のその質問に、ヒョウタは困ったように笑った。


「うーん、難しい質問だな。なんたってこの地下通路では何でもできるって感じだし……。例えば化石を掘ったり、自分の秘密基地を作ったり、それに友達と一緒に遊べるのも面白いね。詳しいことはハクタイの地下おじさんに聞いてごらんよ」


そう言った後にヒョウタはおもむろにポケットから化石を取り出した。

それを愛おしそうに眺めるヒョウタに、の心が渦を巻く。

その視線が自分に向けられればいいのに。

何故だかはわからないが、は確かにそう思った。

馬鹿馬鹿しいことこの上ない。

化石に嫉妬するなどと。

大体何故嫉妬するのかさえわからないのに。


「化石って可愛いよね。君もそう思うだろ?」


そう言ってこちらに笑顔を向けるヒョウタの顔は、本当に輝いている。

その笑顔に「貴方の方が可愛いですよ」と言いかけたその言葉を、は必死で飲み込んだ。

男性が「可愛い」と言われて喜ばないことを、は知っていたのだ。

ヒョウタは再び化石に視線を移すと、呟くように言った。


「まあ、君の方が可愛いけどね」


その言葉に、は首が千切れんばかりに勢いよくヒョウタの方を見た。

ヒョウタの顔は、影になっていてよく見えない。

けれどもその耳が真っ赤に染まっていることに気がついた。

そして、自分の本当の気持ちにも。

ヒョウタにそう言われて嬉しいと感じるこの気持ちは、きっと愛だ。

さて、どんな風に想いを伝えようか?

二人はまだ始まったばかりである。










恋愛黎明期

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